我々の体を動かしている化学エネルギーと比べて遥かに大きなエネルギーを原子・原子核は持っています。これらの巨大なエネルギーをいかに制御し、利用するかは人類の大きな課題です。すでにX線・ガンマ線・重粒子線・中性子を用いた外部放射線治療方法がいくつも考案・実現されています。また近年、標的内用療法と言われるα線やβ線、電子を利用した核医学治療が大きな関心を集めています。これらの治療効果の可視化や精度向上、更に新しい原理に基づくエネルギー制御・医学応用を探索します。
核分裂や核融合は原子核の持つエネルギーを有効に取り出そうとする試みの1つです。これらの原子核反応の際に放出されるX線・ガンマ線や中性子・荷電粒子などの挙動を正確に把握し制御することは極めて重要な課題です。研究室ではこれらを、高精度に可視化する技術を開発し、より安全で効率的な手法の開拓を目指しています。また課題となっている廃炉でのモニタリング技術の開発研究も進めています。
我々人の体は、機能を有する臓器(cm)、臓器を構成する細胞(µm)、細胞を構成する分子(nm)、分子を構成する原子(Å)、原子を構成する原子核や電子 (fm)から成り立つ階層構造を有しています。これらの階層構造を解き明かすためには複数の時空間スケールでの観測・計測技術が必要となります。例えば、病気の診断には非侵襲的に体の内部でどのような分子が発現していて、どのような形態を有しているかという情報が必要となります。臨床的にはこのような診断は現在X線を用いたCTや原子核スピンを用いるMRI、陽電子とそこから生じるガンマ線を用いたPET等によって実現されていますが、病気を根治するような診断・治療は実現できていません。研究室ではこのような観測・診断・治療を実現するために、様々な波長の光や放射線、原子、原子核、電子などの性質を利用した新たな原理に基づく手法を提案し研究を進めています。
人体の階層構造を解き明かすような革新的手法を実現するためには、自然界に存在する物質や光を高精度に計測する量子計測の発明が欠かせません。物理や生物の多くの発見は新たな観測手法の発明によって実現されてきました。例えば原子は原子核と電子によって構成され、原子核は陽子と中性子から構成されています。陽子と中性子はさらにクォークと呼ばれる素粒子から成り立っています。さらに電子にはその反物質である陽電子が存在しますし、別の世代にはミュオンと呼ばれる電子より重い素粒子が存在します。一方で質量を持たない光も目で観測可能な可視光から低いエネルギーを有するラジオ波、高いエネルギーを有するX線やガンマ線が存在し異なる性質を有しています。研究室ではこれらの原子や原子核を構成する量子を高精度に計測・制御する手法・デバイスの研究開発を行っています。これらの制御技術は例えば医療においては治療に威力を発揮することになります。
また量子もつれ光子対や原子核から放出されるもつれ光子対などの量子現象・効果を実際の医学や生命科学の計測に展開する研究も行っています。
ガンマ線やベータ線などの高エネルギー光子や粒子は、原子核から放出されます。電子陽電子対消滅から放出される光子対の偏光は量子もつれ状態にあることが知られています。また原子核からカスケード放出される光子は特殊な時空間相関をもっており、それらの放出方向の関係は原子核スピンを制御することで操作することができます。このような現象を利用して生体内の化学情報や微小電磁場を取り出すことが可能なことが分かってきました。研究室では、これらの相関や量子もつれ状態を詳しくしらべたり、可視化する技術の開発を進めています。
コンプトンPETハイブリッドカメラによる多分子同時撮像システムの研究開発
量子ドットとRIを融合した光・放射線マルチモーダル可視化技術の開発
量子もつれPET・ポジトロニウムイメージング
フォトンカウンティングCT技術の研究開発
中性子・ミュオン・X線・ガンマ線
廃炉・環境・宇宙応用向け量子計測技術の研究
もつれ光子対を用いた新たな光子対診断治療学の創生 リンク
ラジオセラノスティクス・RI内用療法と診断
治療・診断薬剤集積を同時に可視化するコンプトンPETカメラ
X線を多色で撮像するマルチカラーフォトンカウンティングCT (Shimazoe et. al, Commu. Eng. 2024)
量子もつれPET・スピンPET (Caradonna et.al. Physical Review A, 2025, Kim et. al, JINST 2023)
pHセンシングー核医学 (Shimazoe et. al, Commu. Phys. 2022)